不動産コラム
お盆で「お墓・相続」の話─不動産が絡む相続で、もめないための進め方

「そろそろ実家をどうするか」を、切り出せないまま毎年が過ぎていく
お盆に久しぶりに家族がそろうと、実家や土地の話題が出ることがあります。ところが、いざ切り出そうとすると「縁起でもない」と言われそうで、結局その日も話せないまま終わってしまう。そうしたお話を、私どもは毎年この時期に多くうかがいます。
相続の話し合いは、関係者がそろわなければ前に進みません。全国に散らばったご家族が顔を合わせられるお盆は、その数少ない機会のひとつといえます。
結論:「取り分」ではなく「現状の共有」
結論から申し上げます。相続の家族会議で取り組んでいただきたいのは、次の2点です。
- どこに、どのような財産があるのかを家族全員で共有すること
- 不動産について「残す・貸す・売る」の大まかな方向性を確認すること
金額や取り分の結論を1日で出す必要はありません。「現状を共有し、次に話し合う日を決める」だけでも、将来の行き違いはかなり減らせると考えられます。
基本的な考え方
(1)相続税は、一部の資産家だけの話ではなくなっています
国税庁が公表した「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、亡くなった方のうち相続税の申告が必要だった方の割合(課税割合)は10.4%でした。10人に1人を超え、統計上もっとも高い水準です。
| 項目 | 全国(令和6年分) | 備考 |
|---|---|---|
| 課税割合 | 10.4% | 前年(9.9%)から上昇 |
| 1人当たり課税価格 | 約1億4,025万円 | 課税対象となった方の平均 |
| 1人当たり相続税額 | 約1,946万円 | 同上 |
地域差も大きく、東京国税局の公表資料では、東京都の課税割合は20.0%(約5人に1人)、神奈川県は15.5%、千葉県は11.3%となっています。地価の高い地域に自宅をお持ちの場合、「うちは関係ない」と考えていた方が対象になることも珍しくありません。
※課税割合は、亡くなった方の総数に対する申告書提出があった方の割合です。実際に相続税がかかるかどうかは、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や各種特例の適用によって異なります。詳細については税理士等の専門家への確認が必要です。
(2)もめる最大の理由は「不動産は分けられない」こと
相続財産の内訳を金額の割合でみると、次のような構成になっています。
| 財産の種類 | 割合 | 分けやすさ |
|---|---|---|
| 現金・預貯金など | 34.9% | 金額で細かく分けられる |
| 土地 | 30.2% | 簡単には分けられない |
| 有価証券 | 17.8% | 比較的分けやすい |
| 家屋・構築物 | 4.8% | 分けられない |
| その他 | 12.3% | 内容による |
土地と家屋を合わせると35.0%。現金・預貯金とほぼ同じ規模を、不動産が占めています。ところが預貯金が1円単位で分けられるのに対し、自宅や貸地は物理的に切り分けられません。「財産の3分の1が、分けにくい形で残る」──これが、相続の話し合いが難しくなる根本的な理由です。
(3)相続対策には「進める順番」があります
相続対策と聞くと、多くの方が「節税」を思い浮かべます。しかし実務の現場でこじれるのは、その手前の「分け方」であることがほとんどです。次の順番で進めることをおすすめしています。
| 順番 | 対策 | 確認すること |
|---|---|---|
| ① | 現状確認 | どんな財産が、どこに、いくらあるか |
| ② | 分割対策 | 誰に何を渡すか。不公平にならないか |
| ③ | 納税対策 | 納税資金は足りるか。すぐに払えるか |
| ④ | 節税対策 | 評価額や税額を適正に抑えられるか |
①を飛ばして④から着手すると、「節税はできたが、分けられない財産だけが残った」という結果になりかねません。お盆に取り組んでいただきたいのは、まさに①の現状確認です。
よくあるご相談のケース
ケース1:主な財産が実家だけで、兄弟で分けられない
同居していた長男が実家を相続すると、他の兄弟に渡す財産がほとんど残らない、というご相談です。長男が代償金を用意できるか、売却して分けるのか、方針が決まらないまま何年も経過してしまう例が見られます。
ケース2:先代名義のまま、登記が残っていた
亡くなった祖父の名義のままになっていた土地が見つかり、いざ相続手続きを始めると、相続人が10名以上に膨らんでいた、という例です。世代をまたぐほど関係者が増え、連絡をとること自体が難しくなります。
ケース3:貸している土地(底地)があり、評価も分割も難しい
先代から引き継いだ貸地について、「契約書が見当たらない」
「地代が長年据え置かれている」「更新料の取り決めがはっきりしない」といったご相談です。借地権が設定された土地は、一般の土地とは評価方法や換金性が異なるため、相続前から状況を整理しておくことが特に重要になります。
判断を誤りやすい注意点
- 口約束は残らない:「実家は長男に」と家族で話していても、記録がなければ後から主張が食い違うことがあります。
- 期限があります:相続税の申告・納付は原則として亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。また、遺産分割が長期化した場合、原則として10年を過ぎると特別受益や寄与分を主張できなくなる取扱いが設けられています。
- 「時価」と「相続税評価額」は別物:売れる金額と、税金の計算に使う金額は一致しません。分け方の話し合いでは、どちらの金額を前提にしているかを揃えておく必要があります。
- 登記に関する義務が強化されています:2024年4月から相続登記が義務化され、原則として取得を知った日から3年以内の申請が求められています(正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象)。さらに2026年4月からは、所有者の住所・氏名の変更登記も、変更から2年以内の申請が義務とされました(5万円以下の過料の対象)。
- 駆け込みの「節税購入」には注意が必要です:令和8年度税制改正大綱では、取得から5年以内の貸付用不動産について、通常の取引価額をもとに評価する見直しが示されています(令和9年1月1日以後の相続等から適用予定)。制度の詳細は今後の通達等で確定するため、個別の判断は税理士等への確認が必要です。
具体的な対応方法
ステップ1:書類を集める
- 固定資産税の納税通知書(毎年春に届くもの)
- 登記識別情報(権利証)、登記事項証明書
- 土地の賃貸借契約書、賃貸物件の契約関係書類
- 預貯金の通帳、保険証券の一覧
納税通知書があれば、所有不動産の所在や固定資産税評価額の目安をおおよそ把握できます。まずは家族でこれらの資料を確認し、どのような財産があるのかを整理するところから始めれば十分です。
ステップ2:分け方の選択肢を知っておく
| 分け方 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産はそのまま特定の相続人が取得 | 対象の財産が複数ある場合 |
| 代償分割 | 取得した人が他の相続人に金銭を支払う | 自宅を残したい場合 |
| 換価分割 | 売却して現金を分ける | 公平さを重視する場合 |
| 共有 | 複数人の共有名義にする | 当面は売却や分割が難しい場合 |
共有は一見公平な分け方ですが、売却や建替えの際に全員の同意が必要となる場合があり、意思決定が難しくなることがあります。また相続を重ねると権利関係も複雑になります。そのため、実務ではできる限り避ける方向で検討することが多い方法です。
ステップ3:不動産ならではの解決手段を検討する
話し合いが行き詰まった場合でも、不動産には次のような打ち手があります。
- 売却・買取:市場での売却のほか、収益物件や底地は不動産会社による買取を利用し、現金化を図ることもできます。
- 等価交換・底地と借地権の交換:地主と借地人が権利を交換し、それぞれが完全な所有権の土地を持つ形に整理する方法です。
- 地代の改定・契約条件の整理:契約内容を確認し、地代水準や更新の取り決めを見直します。
- 建替え・活用の見直し:老朽化した建物について、建替えや用途変更で収益性と分けやすさを高める方法です。
いずれも、契約内容とこれまでの経緯によって取り得る選択肢が変わります。まずは事実関係を整理することが出発点になります。
専門家に相談した方がよいケース
次のいずれかに当てはまる場合は、早い段階で専門家にご確認いただくことをおすすめします。
1. 財産の大半が自宅や賃貸物件など不動産に偏っており、分ける現金が少ない
2. 貸地・借地・共有名義など、権利関係が複雑になっている
3. 先代名義のまま登記が残っている、または相続人が把握できていない
4. 相続税がかかりそうだが、納税資金の目処が立っていない
5. 相続人の中に、遠方の方や連絡が取りづらい方がいる
なお、税額の計算や特例の適用可否については税理士等の専門家、遺産分割の法的な効力や争いのある事案については弁護士への確認が必要です。私どもは、不動産の評価・分け方・売却や活用といった実務面から課題整理をサポートいたします。
まとめ
1. 相続税の課税割合は10.4%(令和6年分)。東京都では約5人に1人が対象で、特別な話ではなくなっています。
2. 相続財産の35.0%は土地・家屋。「分けられない財産」が多いことが、話し合いが難航する主因です。
3. 対策は「①現状確認→②分割→③納税→④節税」の順に。節税から始めると、分けられない財産だけが残りかねません。
4. お盆にすべきことは結論を出すことではなく、財産の共有と方向性の確認、そして次に話し合う日を決めることです。
5. 相続登記(2024年4月〜)に加え、住所・氏名の変更登記も2026年4月から義務化されています。名義の確認は早めに行いましょう。
相続は、財産の内容や契約関係、これまでの経緯によって状況が大きく異なります。一般的な考え方をそのまま当てはめられないことも多いため、個別の事情を確認しながら進めることが重要です。ご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。