不動産コラム

2026/08/05 09:00
不動産実務
賃貸経営

【不動産実務コラム】トラブルを未然に防ぐ「スケルトン渡し」の落とし穴とは?契約締結時における原状回復義務の明確化が重要な理由

退去時のトラブルは、実は契約時から始まっています

商業ビルやオフィスビルを所有されているオーナー様の中には、テナント退去時の原状回復工事で想定外のトラブルを経験されたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に近年は、建築コストや人件費の上昇により、退去時の解体工事費用が以前よりも高額になる傾向があります。そのため、「ここまで撤去するとは思わなかった」「貸主と借主で認識が違っていた」といった問題が、数百万円単位の費用負担の差につながるケースも珍しくありません。その代表例が「スケルトン渡し(スケルトン戻し)」です。一見するとシンプルな契約条件に見えますが、実務の現場では解釈の違いからトラブルに発展することが少なくありません。当社が銀座エリアを中心に数多くの商業ビル・オフィスビルの賃貸借契約に携わる中でも、スムーズな退去を実現できるかどうかは、退去時ではなく契約締結時に決まると感じています。

そもそも「スケルトン渡し」とは何か

一般的にスケルトンとは、建物の構造躯体のみを残し、

  • 内装材
  • 天井仕上げ
  • 床材
  • 各種設備機器
  • 造作物

などを撤去した状態を指します。しかし実務上は、「どこまで撤去すればスケルトンなのか」について明確な定義がありません。実はここが、ほぼすべてのトラブルの出発点になっています。

なぜ「スケルトン渡し」で紛争が発生するのか

スケルトン渡しに関するトラブルの最大の原因は、契約書に定量的な基準が記載されていないことです。 契約書には、「退去時はスケルトン状態で返還すること」とだけ記載されているケースが少なくありません。しかし、

  • 借主が考えるスケルトン
  • 貸主が考えるスケルトン
  • 工事会社が考えるスケルトン

が必ずしも一致しているとは限らないのです。そしてその認識のズレは、退去直前になって初めて表面化します。

実務で特に揉めやすい3つのポイント

設備配管・配線の撤去範囲

最も多いのが設備関係です。例えば、

  • 給排水設備
  • ガス配管
  • 電気配線
  • 空調設備

などについて、「どこまで撤去するのか」という解釈が一致していないケースがあります。専有部分の末端で切り離すのか、それとも共有部分の分岐点まで撤去するのかによって、工事内容も費用も大きく変わります。実際に解体工事が始まった後で追加工事が発生し、想定を超える費用負担につながることもあります。

スラブ(床)の復旧レベル

次に多いのが床仕上げに関する問題です。飲食店やクリニックなどでは、

  • 防水区画の設置
  • 床のかさ上げ
  • 配線ピットの埋設

が行われていることがあります。これらを撤去した後、

  • 哪の程度まで平滑に戻すのか
  • 穴埋めは誰が行うのか
  • 不陸調整は必要なのか

といった点で意見が分かれることがあります。

防火設備や法令関連設備の扱い

意外に見落とされるのが、

  • 防火扉
  • 防火シャッター
  • 消防関連設備
  • 共用部との境界設備

などです。これらは単なる内装設備ではなく、建築基準法や消防法が関わる場合があります。

そのため、「撤去したら終わり」では済まず、復旧工事や行政対応が必要になるケースもあります。

「竣工図面があるから安心」とは限らない

貸主様から、「竣工図面が残っているので問題ないと思う」というご相談を受けることがあります。

しかし実際には、図面だけで解決できるケースはそれほど多くありません。なぜなら、オフィスや店舗は長年の入居期間の中で、

  • レイアウト変更
  • 造作工事
  • 設備更新

が繰り返されているためです。結果として、「図面と現況が一致していない」という状態が頻繁に発生します。 当社の実務においても、最終的には現地確認を行いながら貸主・借主双方の合意形成を図るケースが少なくありません。

当社が考える最も有効なリスクマネジメント

こうした退去時の紛争リスクを最小化するためには、解体工事や原状回復工事が始まる退去間際ではなく、「最初の賃貸借契約を締結する段階で、どこまで将来を見据えた合意形成ができているか」が極めて重要になります。実際に当社がこれまで携わってきた事業用不動産の契約実務においても、退去時に大きなトラブルへ発展した案件の多くは、「契約書にスケルトン返還と書かれていたが、その定義が曖昧だった」というケースでした。

一方で、入居時に十分な整理が行われていた契約では、退去時の協議も比較的スムーズに進む傾向があります。そのため当社では、単に契約書へ「スケルトン状態で返還する」と記載するだけではなく、契約書とあわせて次の2つの書類を整備しておくことを推奨しています。

現況確認書の作成と保管

一つ目は、引き渡し時点の状態を記録する「現況確認書」です。写真や図面だけでなく、

  • 分電盤の位置
  • 給排水設備の接続状況
  • 空調設備の区分
  • 既存造作の範囲

などをできるだけ詳細に記録しておくことが重要です。なぜなら、退去時のトラブルの多くは、「これは元々あった設備なのか」「テナントが設置した設備なのか」という認識の違いから始まるためです。入居時の状態が客観的に残されていれば、その後の協議において大きな判断材料となります。

原状回復工事仕様書の事前策定

二つ目が、原状回復工事の仕様を契約段階から整理しておくことです。当社では、可能であれば契約時点で、

  • 解体範囲
  • 撤去対象設備
  • 残置可能な設備
  • 配管・配線の処理方法
  • 床、壁、天井の仕上げレベル

まで整理することを推奨しています。例えば、「床はコンクリート素地まで戻す」のか、「簡易補修後に引き渡す」のかによって、工事費用は大きく変わります。こうした条件を事前に明確化しておくことで、退去時の見積金額のブレを抑えられるだけでなく、貸主・借主双方が将来の費用を想定しやすくなります。

当社が重視している考え方

私たちは、退去時のトラブルは、退去時の問題ではないと考えています。本当の問題は、契約時に将来の出口戦略まで設計されていないことです。スケルトン渡しに関する紛争は、解体工事の問題として捉えられがちですが、実際には貸主・借主双方の認識共有が不足したまま契約がスタートしていることが原因であるケースがほとんどです。だからこそ当社では、単に契約を成立させることではなく、「退去時まで見据えた契約設計」を重要なリスクマネジメントの一つとして位置付けています。

スムーズな退去は「最初の契約」から始まる

不動産取引において、「終わり良ければすべて良し」という言葉は、綿密な契約設計があって初めて成り立つものです。退去時の原状回復トラブルは、借主にとっては想定外の工事費用や保証金(敷金)の返還遅延につながり、貸主にとっては次のテナント募集の遅れや空室期間の長期化を招く可能性があります。つまり、スケルトン渡しに関する認識のズレは、貸主・借主の双方にとって大きな損失となり得る問題なのです。

だからこそ重要なのは、退去時に問題が起きてから対応することではなく、契約締結の段階で、将来起こり得るリスクをどこまで想定し、整理できているかという視点です。

当社では、事業用不動産の仲介や契約実務に携わる中で、数多くの原状回復やスケルトン渡しに関する案件を見てきました。その経験から言えることは、退去時のトラブルの多くは、入居時の契約設計によって未然に防ぐことができるということです。

オフィスや店舗の新規契約をご検討中の方はもちろん、既存契約の原状回復条件に不安を感じている方、将来の退去時に備えて契約内容を見直したいとお考えの方は、一度現在の契約条件を整理してみることをおすすめします。契約書のわずか一文の違いが、数年後の大きなトラブル防止につながることもあります。

当社では、単なる契約締結にとどまらず、入居から退去、そして次のリーシングまでを見据えた不動産実務のサポートを大切にしています。原状回復条件やスケルトン渡しに関する不明点、契約内容の確認などがございましたら、お気軽にご相談ください。将来のリスクを減らし、安心して不動産経営を行うためのお手伝いをさせていただきます。

株式会社パワーコンサルティングネットワークス
銀座支店|事業用不動産の価値向上を支えるプロフェッショナルチーム

私たち銀座支店は、オフィスビル・テナント物件などの事業用不動産における賃貸管理・運営支援・収益向上に関するあらゆる課題に対して、専門的な視点から「最適な運営戦略」を見極め、ご提案する部門です。